健康まちづくりEXPO2024
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小林浩之・松本市産業振興部長
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「DXは地方でこそ有用」
市民・企業とともに育てる健康まちづくり

松本市・小林浩之産業振興部長に聞く

2023. 02. 28

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長野県松本市は「松本ヘルス・ラボ」を健康まちづくりとヘルスケア産業の振興を両立させるという野心的な取り組みの「エンジン」として位置づけている。ラボ設立から8年。これまでの運営の手ごたえを同市産業振興部長の小林浩之氏に聞いた。

――松本市が健康まちづくりをめざす背景を教えてください。

松本市の人口は23万人台で高齢化率は約29%。長野県全体の同33%に比べるとやや低いのですが、900㎢を超える広い市域に、過疎地域や郊外型の既存集落、人口集中地区が混在しています。超少子・高齢化、人口の減少、医療・介護費の増加など全国の地方都市が抱える社会課題に私たちも直面する一方で、コミュニティの活性化、地域経済の好循環などのニーズにこたえていく必要があります。

地方財政や人的資源など環境が厳しくなるなかで、私たちは、こうした社会課題の解決や地元のニーズにこたえていく方策の一つとして民間事業者などとの連携を位置づけています。松本市や市民と連携した形でヘルスケア分野における新たな商品やサービスが企業から生まれ、事業の継続性が担保されれば、市民・企業・行政、それぞれにとっての共通価値(CSV)が生まれ、地域全体がWin-Winの関係になれるのではないかと考えています。そんな狙いから、松本市では専門部署を置き、ヘルスケア産業の振興と市民の健康づくりの両立を目指すことにしたのです。

――その中核を松本ヘルス・ラボが担っているわけですね。しかし、なぜこれを市が直接ではなく、一般財団法人の松本ヘルス・ラボが行っているのですか。

ラボは発足当初から2つの機能を併せ持っていました。一つは主に市からの負担金を財源に健康に関心のある市民・会員に対して健康づくりに必要な情報や活動の場を提供することです。もう一つは、企業が提案するヘルスケア分野の商品やサービスの開発に向けたモニタリング調査や実証実験に、関心のある市民・会員が参加できるという社会貢献の場を提供することです。

モニタリング調査や商品開発などのためにラボ会員が参加するテストフィールドを企業が利用する場合には、独立採算を前提にラボは企業から受託事業として収入を得ることができます。そのため収益事業が可能な法人格を持つ一般財団法人として松本ヘルス・ラボが設立されました。この受託事業で得た収益の一部は、市からの負担金では賄いきれない会員の健康づくり事業や組織の運営費に充てられています。

――企業の研究開発や商品開発を地域住民がモニタリング事業に参加して自身の健康データを提供する形で後押しするというところが面白いですね。

先ほども申しあげましたが、様々ある社会的課題、住民ニーズに対して、行政だけで対応するのは財政的にも、マンパワーとしても難しくなっています。この仕組みを機能させるためには、市民の健康増進、疾病予防といった社会課題の解決に向けて市民、企業、学術機関、行政が共通価値の創出に向けて、それぞれが応分の責任を果たしていくことが重要です。

具体的にいえば、市民は、健康データを提供する見返りとして健康に関するきっかけづくりができ、企業は必要な市民の健康データを得ながら社会課題の解決にこたえるような商品開発に挑み、最終的には利益を得ていくこと、行政にとっては企業誘致までいかなくても外部資金によるヘルスケア関連事業を誘致し、健康づくりという住民ニーズに的確に応えていくことが責任を果たすということになるでしょう。それぞれの目的は違っても、利害関係者として互いのメリットやリスクを理解し、実現に向けて役割を積極的に果たしていくことが大切になります。

こうした仕組みを産業振興の視点から考えますと、市民を巻き込んで利害関係のある企業、学術機関、行政が共通価値の創出(CSV)を目指して、実現性の高いモニタリング調査などの事業を行える産学連携プラットフォームが松本市に存在するということが「面白い」=「松本市の特徴」と言えるのかもしれません。

――企業にテストフィールドを提供し、結果的に地元の産業振興につながっていくイメージを教えてください。

基本的な考え方として、超少子高齢型人口減少社会におけるヘルスケア産業は、松本市のような地方都市でサービスを提供する側とサービスを受ける側の距離が近く、地域経済において資金(財)が循環しやすい環境でこそ成長しやすい産業だと考えています。

もちろんテストフィールドを提供し、結果として地域の産業振興まで到達するには時間がかかります。したがって企業から資金提供を受けてヘルスケア関連の製品・サービスの開発やモニタリング調査など松本市で行う事業誘致の実現をまずは目指しています。たとえば、森永乳業は、健康増進に関するこれまでの知見や経験を用いてモニタリング調査を松本市で実施し、学術論文などの研究成果を得て、将来的には機能性食品の開発などにつなげようとしています。

また、こうした企業との連携を一層推進するため、そしてコロナ禍により私たちの生活様式が変化したこともあってデジタル化を図ることにしました。その目玉として、スマートフォンによるアプリを開発・導入することで年間3000円としていた会費を無料化し、個人の健康データの見える化、企業向けモニタリングやマーケティング調査の効率化を図るシステム環境の整備、運営管理のデジタル化などを進めました。2022年2月のアプリ導入以降、ヘルス・ラボの一般会員が増え、現在約5千人まで伸びました。目標登録者数は2025年までに会員数1万人です。今後、会員を対象に企業と連携して大規模調査が簡単にできるようになれば、従来からのモニタリング調査事業に加えて、マーケティング調査の分野でも企業と連携できる可能性があります。

――会費無料化とデジタル化が会員の大幅な獲得につながっているわけですね。

何に取り組むにしても限られた資源の中で効率的、効果的に取り組む必要があります。その意味では、DXは地方でこそ有用と考えています。デジタル化を進め、情報共有を図ることは、人と人、あるいは人と企業、行政などとの共感の創出にもつながります。将来的には、アプリが健康や医療分野においても、個人情報の取扱いや情報セキュリティの課題を整理したうえで、一元化のツールとして利用できるようなればと考えています。

――収集する個人情報の取り扱いには注意が必要です。

会員の情報を外部に提供する場合には匿名化などの処理をして個人が特定できないようにしています。アプリの管理については、松本ヘルス・ラボが責任をもって行っていますが、外的要因による情報セキュリティについては民間事業者と保守契約を締結し、安全に管理しています。

――市役所内での健康福祉担当部署との連携はどうなっていますか。

健康まちづくりを一体として進めるため、健康福祉担当部署とは情報発信やモニター参加者の募集など、必要に応じて様々な連携を図っています。健康福祉担当部署は市の健康福祉行政全般を担っていますので、公平性などに配慮しながら主に公的サービスを提供しています。ヘルスケア分野で行政が個別企業の商品・サービスを導入するかどうかは、公平性、事業費、費用対効果などを勘案し、健康福祉担当部署が総合的に判断して取り組んでいくことになります。これまでに実証事業として取り扱ったサービスを、健康福祉部が採用し、市内35地区の福祉ひろばにシステムを導入した例があります。

産業振興部の取り組みがもっと部門の垣根を越えて広がっていけばいいと思いますが、まずは、ヘルスケア産業がこの地域に根づき、市民の健康増進にも貢献できるような健康まちづくりを地道に進めていきます。

(聞き手・都留悦史)

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