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交通弱者の不利益をテクノロジーで解決
「科学のまち」が先駆ける 「つくば医療MaaS」
2023. 04. 14
科学技術を活用して交通弱者の困り事を解決しようというプロジェクト、「つくば医療MaaS(マース)」が、つくば市で進められている。10年以上前から、市は研究機関や各メーカーと連携して搭乗型ロボットの公道走行実験をするなど、地域の課題を先進的なアプローチで解決するために取り組んできた。22年4月には、「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に決まり、規制改革を進めながら、最先端技術の社会実装に向けてさらに駒を進めようとしている。
「つくば医療MaaS」のイメージは、自宅から独自のアプリでタクシーを呼び出し、AIが最適なルートを選んで相乗り乗車させ、車内で顔認証による受付、病院到着後には自動運転のパーソナルモビリティで診療科へ、受診後は帰宅の車内で会計までができる、というもの。
社会課題の一つが公共交通だけではカバーできない郊外に住む高齢者などの移動手段の確保だ。「つくばエクスプレスの沿線を中心に開発が進み、毎年4000人ほどの流入があります。生活に必要な施設や機能が中心部に集中し、高齢化率が4%程度の市街地もある一方、周辺地域では少子高齢化が進み高齢化率が50%を超える地区もあります。都市部では小学校を増やしても足りず、郊外では廃校が続くという二極化です」とつくば市スマートシティ戦略課の中山秀之課長は話す。
平野が多いつくば市は、土地を余すことなく使えることもあり可住地が広い。総面積283.72 k㎡の85%、市内道路の総延長は約3700㎞もある。「平均的な自治体の4倍ほどの道路があり、自動車の交通分担率は約60%。自家用車の依存度が高く、運転出来ない高齢者などの生活の不便さの解消は目下の課題です」(中山課長)。
その問題意識から、市は十数年前から路線バスの補完として、乗り合いタクシー「つくタク」やコミュニティーバス「つくバス」を運営。延べ10万人ほどの利用データから、行き先がほぼ病院だということがわかり、「つくば医療MaaS」の取り組みにつながった。
「MaaS」とは、モビリティー・アズ・ア・サービスの頭文字をとったもので、直訳すれば「サービスとしての移動」になるが、一般的にはバスや鉄道などをつなぎ、快適で効率的なサービス提供の仕組みを表す。
県や市、筑波大学、KDDIや三菱電機、NECなどの企業からなる「つくばスマートシティ協議会」が行った実証実験では、300人以上の参加者から好評を得たという。「懸念していた高齢者のアプリ操作も問題なく使え、家族や医療関係者の負担が軽減されたことがアンケート結果から明らかになっています」(同課・中村孟係長)。
しかし、市民が日常的に使えるまでのハードルは残る。中山課長は、「各技術の提供事業者の連携、データの規格化、そして収益を確保することが課題です。サービスをはじめてから、やっぱり続けられずにやめるというわけにはいきませんから」と話す。無償でサービスを提供するには限界があり、今後は有償化しての実証実験も加速させていくという。
高齢化、交通弱者の救済は都市部をのぞいた全国的な課題で、蓄積したノウハウを展開していくことを想定する。「他自治体へとマーケットを拡大して参加企業の収益にもつながるのが理想です。前例のない取り組みは利害関係の調整や、内外への説明など大変なのですが、目の前に困っている方がいて知見のある人材がいて、フィールドがある。そこは、引き受けてやるしかないですね」(中山課長)。
広々とした公道をロボットやセグウェイが走る「科学のまち」では、住民の科学リテラシーの高さも強みだ。まったなしの課題に対して最初の一歩を踏み出す「ファーストペンギン」になる覚悟をもったつくば市の取り組みに期待が高まる。